先日、東京都中小企業診断士協会三多摩支部向けにDX関連記事執筆の募集があり、執筆しました。公開ページでの掲載ではなかったため、許可をいただいて転載しています。
私は税理士法人のIT・経営支援部門に勤務する中小企業診断士として、経営者に会計ソフトの導入を支援したり、税理士法人内で会計ソフトの運用を支援する立場にあり、比較的多くの会計ソフトに触れる機会があるほうだと思います。その中で、中小企業の経営者が会計ソフトを活用する意義のようなものをお伝えできればと思い、執筆しました。
本文はここから
DXとは
DXは、デジタル・トランスフォーメーションの短縮形で、2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授が論文で提唱した言葉です。英語で接頭辞のTransを省略する場合にXと表記する習慣から「DX」と標記されるようになり、日本でも経済産業省のレポートなどに引用されたことから広く使われるようになりました。その意味は、簡単に言えば、「DXとは、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルを変革すること」です。
では、経理のDX化を図るにはどうしたらよいのでしょうか。厳密にいえば、単に会計ソフトを導入するだけでは、デジタル技術を利用しているにすぎません。まずは導入するメリット、選び方を確認し、そのうえで、経理のDX化について考えていきます。
会計ソフトの導入状況
実際に会計ソフトを導入している事業者はどのくらいいるのでしょうか。少し古いデータですが、2018年版中小企業白書によれば、会計ソフトを導入している小規模事業者は約4割くらいでした。会計ソフトを使うのが当たり前という状況ではなさそうです。

中小企業が今すぐ始めるべき理由
会計ソフトを導入することには、下記のようなメリットがあります。
①業務効率化:日付の並び替え、元帳への転記や試算表の集計など手作業では非常に手間だった作業が、仕訳を入力すれば自動的に集計されますので、大幅に効率化されます。計算間違いの心配もありません。最近は、銀行明細の自動取り込みや領収書のOCRによる自動仕訳機能や、税務申告(e-Tax)へのデータ書き出しなど、会計の前工程・後工程との連携も進んでいます。
②経営の意思決定支援:経営状態をタイムリーに把握することができるため、経営の意思決定に役立てることができます。売上の推移や利益率などの分析も簡単に行えます。経営状態を把握せずに経営を行うことは、計器なしに飛行機を操縦するようなものです。
③最新税制に対応しやすい:2023年10月から始まったインボイス制度においては、適格請求書発行事業者の場合、会計ソフトを使うことで消費税申告が容易になります。2024年1月から改めて義務化された電子帳簿保存法による電子取引の電子保存も会計ソフトと連携して保管できるものがあります。書類の保管コストの節約も可能になるでしょう。会計ソフト側が税制に対応してくれるので、使っていれば対応できていることが多いと言えます。
会計ソフトの種類と選び方
会計ソフトには、大きく分けて、インストール型とクラウド型があります。
支払方法には、インストール型は購入時の初期費用と年間保守費用が掛かるものが多く、クラウド型は定額の利用料を支払うタイプが多いため、導入時にはインストール型の方が支払額は多くなる傾向にあります。クラウド型の料金も様々なので、もしコストで迷うなら5年程度のトータル費用で考えるのがおすすめです。
インストール型はPCが固定されます。外出先やスマホでも入力・閲覧したいなら、クラウド型で、かつ、スマホ対応かを確認しましょう。PCの場合Windows用ソフトがほとんどで、Mac向けもいくつかあります。一方で、クラウド型なら必ずMacでも使えるという訳ではないので注意が必要です。また、クラウド型はバックアップの必要がありませんが、インストール型はバックアップデータの保管も重要です。終了時に自動的にクラウドにバックアップしてくれるインストール型のソフトもありますが、そうでないソフトは自分で対策が必要です。
会計ソフトは仕訳を入力して決算書を作るという意味ではどれも同じなのですが、やはりメーカーによって癖があります。個人か法人か、簿記を知っている方向けか否か、メーカーが考える顧客層によって画面の構成やメニューの作りが異なります。必ず事前に体験版を利用して操作性を確かめましょう。
販売管理ソフト、経費精算ソフト、給与計算ソフトなど、業務ソフトを利用している場合にはそれらとの親和性についても確認しましょう。
もし税理士さんに税務申告を依頼する場合には、税理士さんにご紹介していただくのが良いでしょう。税理士さんが使っているソフトも様々ですし、合わせた方がデータのやり取りがスムーズになります。
効率化だけじゃない。その先へ
メリットでもご紹介しましたように、会計ソフトの導入により経理作業の効率化を図ることができますし、それを目的に導入されるケースが多いのも事実です。税務申告は事業者の義務とはいえ、自分が作ったものを多くのお客さんに伝えたい、サービスを提供してお客さんに喜んでほしい、そんな思いで起業されたはずです。決して、経理作業をするためではありません。経理業務は会計ソフトを活用して、最低限で済ませ、ぜひ本業に集中する時間、お客さんと向き合う時間をたくさん作ってください。それこそが、本当の「経理のDX化」だと、私は思います。
以上、経営者の皆様が会計ソフトを使うべきかどうか、どんなソフトを購入すべきか、検討する際のお役に立てれば幸いです。
↑ブログランキング参加中!