2024年11月、所属する中小企業診断士の研究会で発表しましたので、その記録です。
なぜこのテーマを選んだか
今年、DXアドバイザー検定に合格しました。(DXアドバイザー検定合格に関してはこちらの記事参照)
DXに関する知識はある程度持っていることのお墨付きをいただいたわけですが、DXと言っても、デジタル化とかIT化と定義があいまいで、パソコンなどのハードウェアから、LAN配線やWi-Fiといったネットワーク関係、セキュリティ、ソフトウェアの開発や運用支援、SNSなどを活用したデジタルマーケティング、さらに最近はAIなど、分野として多岐にわたるので、じゃあ、事業者からDXについて支援してくださいって言われたときに、なにか体系というか、よりどころになるようなものってないのかな、と思って探していました。そんな中で、今年経済産業省が、DXを支援する側向けのガイダンスを公表したということを知り、なんだ、国もよくわかっているじゃないか!と偉そうに読み始めたわけです。笑
私が当初想像していたものと、まったく一緒だったわけではありませんが、これはこれで、こういったことを知っておくことは支援者としてとっても大切だと思いましたので、ちょうどITネタでセミナー講師をしなければならないことにもなっていたので、このテーマを扱うことにした、という訳です。
DX支援ガイダンス策定の経緯
我が国の中小企業を取り巻く環境の変化、東京圏と地方圏の生産性の乖離などを踏まえ、中小企業においてDX化に取り組みなければならない状況です。しかし、単独でDX化に取り組める事業者ばかりではなく、DX化を支援する側に対する施策も必要であるという考えのもと、本ガイダンスが策定されました。
検討会の委員は座長を含め、7名。こんな方々でした。
支援機関を通じた中堅・中小企業等の DX 支援の在り方に関する検討会
<座長>
三谷 慶一郎 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所 主席研究員 エグゼクティブ・コンサルタント
<委員> ※50 音順
井川 浩二 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ ソリューション事業本部 副本部長
岡田 浩一 明治大学経営学部 教授
田口 潤 株式会社インプレス 編集主幹 兼 IT Leadersプロデューサー
中尾 克代 株式会社 DX 経営研究所 代表取締役
宮村 和谷 PwC あらた有限責任監査法人 執行役
武藤 元美 株式会社福岡情報ビジネスセンター 代表取締役
全体像
左側の部分で背景・目的、現状、課題をまとめています。中小企業のDX化は遅れていること、東京圏と地方圏の差が大きいこと、これまで補助金などでDX化に取り組む個社支援を国もしてきたが、支援機関側の支援によって面で支援することが必要、でも支援機関も課題がある、といった内容です。
右側の部分で、DX支援にどう取り組むべきかを3章にわたって説明されています。第3章では考え方や具体的なツール(施策)が紹介され、第4章で支援機関同士の連携について、第5章でDX人材の育成についてまとめられています。
DX化が必要な背景
東京圏と地方圏では生産性に差が生じていて、日本全体で成長するには地方圏の成長が欠かせず、それにはDX化を進めることが必要だ、というストーリーですね。
上記の図は日本生産性本部の公開している労働生産性の国際比較で、OECD38か国中、日本は30位で、近年低下が著しく、国際競争力が低下していることが示されています。とっても残念です。もっと生産性を高めて魅力のある国になってほしい!いいところたくさんあるのに!
今回のDX支援ガイダンスの背景では国際比較には触れられていませんでしたが、こちらも我が国の課題を示す資料として重要と思い、発表の際に合わせてご紹介しました。
DXのステージを4段階に分けて説明されるのはすでに一般的になっています。第3段階以上になると右図にあるように、売上高や生産性がプラスになるので、最終的には第4段階、本来の意味でのDXの状態を目指すものの、その1歩手前である第3段階、業務の効率化や生産性向上に寄与するところまでデジタル化を進めたいところです。ただ、この第3段階にまで行けている企業はまだ3分の1に過ぎず、3分の2は全く未着手か、単にデジタル化したにすぎないレベルというのが現状なのです。
でも、中小企業は人材が足りない・・・
そこで、支援機関に頑張ってもらわないと!ということですね。
第3章 DX支援の考え方・方法論
ここでは、具体的な方法論が説明されているのですが、特に、DXってツール入れればいいってもんじゃなくて、ちゃんとビジョンとか考えないと意味ないよ!ということが強調されています。
すでに、国はDX支援を実施するためのツールとして、デジタルガバナンス・コード、DX推進指標、DX認定制度というのを作っているので、有効に活用してねというまとめになっています。私もよくわかっていませんでした。
デジタルガバナンス・コードは、DXによって企業価値を向上するためには、単にクラウドサービスを導入しようとか、うちもAIやるぞ~!ではなく、我々の会社はどんなビジョンを持って、5~10年後どうなっていたい、そのためには今何が足りないので、そこをDXで補い、強化しよう!というように進めないと続かないし、意味のある設備投資にならない、ということをまとめたものです。DX担当者に丸投げするのではなく、経営者自身も主体的に、この会社をどうしたいのか、から考えていく必要があるし、支援者としても、まずは経営者にその部分からしっかりヒアリングする必要があります。
DX推進指標は、経営とITに関する35の質問に答えることで、自社の立ち位置、課題や、他社との比較、経年変化を知ることがで切るというものです。ものづくり補助金(第14~16回公募)の申請要件になっていたことから、2023年は4000社を超える登録がありました。DX推進指標のサイトで登録すると、自社のDX状況をレポートで返してくれます。毎年申請することで、ちゃんと進捗があるかの経年変化も見ることができます。デジタルガバナンス・コードを踏まえ、IT担当者だけでなく、経営者自身も一緒に回答しなければならない項目があるので、担当者にやっといて、という訳にはいかないようになっています。
最後に、DX認定制度が紹介されています。名前からするといかにもDXが進んでいる会社を認定しそうですが、DXに取り組んでいる企業を認定する制度なので、できていないから申請できないということはありません。この認定を受けることができると、①ロゴマークの使用、②優遇税制、③低利融資などの金融支援、④人材育成の助成金が受けられるといったメリットがあります。しかしながら、2024年10月時点で中小企業は548者、大企業を合わせても1205者しか認定を受けておらず、知名度が低いから意味ないのか、いま取れば稀有な存在になれるのか、意見の分かれそうな感じです。
各施策の位置関係はこのような感じです。
第4章 支援機関同士の連携
支援機関もそれぞれ得意不得意があるから、連携して、中小企業を面で支えていくべきだよね、という内容です。様々な支援機関があるけど、このガイダンスでは特に、地域金融機関、地域ITベンダー、コンサルタントの3者を主治医的役割と位置付けています。
また、この中で、地域DX推進ラボという取り組みについて紹介されています。
現在、全国で43の地域が指定されており、東京は大田区DX推進ラボの1件のみでした。
セミナーでは、釧路地域DX推進協会の資料を紹介しました。
第5章 DX支援人材の在り方
この章では、DX支援人材はどのようなスキル・マインドが必要か、そのための施策について記載されています。特にマインドに重きを置いて主張されており、DXの支援が単にスキルの導入だけでなく、第3章でもデジタルガバナンス・コードについて取り上げていたように、DX支援人材に対しても、単にスキルを持っていればよいということではなく、企業をありたい姿に導くコンサルティングの視点が重要であり、DXの本質を理解したうえでデジタル技術のスキル等を身につけることが必要だとまとめています。
具体的な指針として、経済産業省はデジタルスキル標準を定めています。
デジタルスキル標準は、DXリテラシー標準とDX推進スキル標準から構成されますが、特にマインドの点においては、DX推進人材に必要とされるスキル(DX推進スキル標準)よりも、経営層を含む全ビジネスパーソンに必要とされる「DXリテラシー標準」の学習が重要だとしています。
また、このDXリテラシー標準の習得に特に有用なのが、ITパスポート試験であるということです。
まとめ
以上のように、今回、DX支援ガイダンスについて、セミナーでご紹介しました。
DX支援ガイダンスはもとより、デジタルガバナンス・コードやデジタルスキル標準など、私も知らなかったことがたくさんあり、私自身の学びにもなりました。
実務での経験が大事なのはもちろんですが、こういった体系的な学びも経験の点と点を線で結び、免にしていくうえで、とても参考になりますし、これからもっと中小企業・事業者のDX支援に生かしていきたいと思います。