経営に役立つ会計とは(MQ会計)

会計

会計事務所に二十数年勤務してきて、会計を経営にもっと役立ててほしいと、ずっと思ってきました。

経営者の方って、会計が苦手という意識が強いのか、決算書や試算表を見る人、あまりいないですよね。毎年、税務申告に合わせて、決算書(個人事業なら青色決算書や収支内訳書)を作りますが、この決算書を経営の意思決定に活用されているでしょうか。会計を学んできた人間にとっては、損益計算書を見ればその会社の経営状態が良いのか、貸借対照表に異常なものがないかなど、どこを見ればよいのか自ずと身についてくるわけですが、会計を勉強してきたわけでない人が決算書を見ても、活用するのはすごく難しいようです。

会計が苦手な方は、数字の羅列で頭がくらくらするとか、試算表や決算書を見て何をどうしたらいいかわからない、とおっしゃいます。

なぜ会計は経営の役に立たないのか

なぜ会計は経営の役に立たないのでしょうか。確かに、経営者が会計は経営判断のツールとして役に立たないと思うのもわからないでもありません。なぜなら、今の決算書は、税務申告や株主に報告するための道具であり、経営の意思決定のためのものではないからです。

会計には、制度会計と管理会計、という目的によって大きく二つに分けて説明されることがあります。

制度会計は、まさに税務申告や株主報告への外部報告のためという、制度に基づいた会計であり、このような目的のためには、皆がそれぞれ勝手な方法で利益を計算するのではなく、一定のルールに基づいて決算書を作成する必要があります。例えば、設備投資や備品を購入した場合に、法律によって定められた耐用年数に応じて、減価償却により買った年だけでなく、数年にわたって費用化していくというルールもこのためです。仮に今期の売上に貢献するだけで、来期以降に効果が継続しないとしても、耐用年数に応じて費用化しなければならないわけです。特に中小企業では、法人税法や所得税法、消費税法などの税法に基づいて会計処理を行うことが多いため、税務会計とも呼ばれます。
ちなみに、この制度会計の考え方を財務会計と呼ぶ場合もあるようですが、個人的には財務会計の下に制度会計と管理会計に分かれる、と考えた方がわかりやすいのではないかと思うので、ここでは制度会計と呼んでいます。

図 中小企業会計要領における損益計算書のひな型

一方、管理会計とは、経営者や責任者が経営判断の材料として活用するための内部報告を目的とした会計を言います。具体的には、財務分析や損益分岐点分析、予算管理、セグメント別の損益管理などがあります。社内の意思決定のための会計なので、形式に決まりはなく、期間も意思決定に必要な期間を集計するため、1年の場合もあれば、四半期や月単位の場合もあります。

つまり、「会計が経営に役に立たない」というのは、「制度会計が経営意思決定の役に立たない」という意味であり、当然のこと。経営意思決定に使いたいのであれば、管理会計で考える必要があるわけです。

経営をブロックで考える

経営に役に立つ会計のために、また管理会計という新しいものを勉強しなければならないのか・・・否です。皆さんのお手元にある決算書、これを少し見方を変えることで、分かりやすく、経営に使えるものに変化させることができます。

それが、MQ会計と呼ばれる考え方です。
人によって、変動損益計算書やSTRAC図と呼ばれることもありますが、中身は同じです。

税務申告で作成している決算書をもとに、下の図のように5つのブロックに当てはめてみます。

P(Price)販売単価1個当たりの売値
V(Variable Cost)1個当たり変動費1個増えたときに増加する原価
M(Margin)1個当たり限界利益P-V
Q(Quantity)数量販売数量
F(Fixed Cost)固定費販売数量の増減に無関係なコスト。V以外のコスト。
G(Gain)経常利益MQ-F

売上高(PQ)

売上高は、制度会計の決算書と同じです。売上高をP(販売単価)×Q(販売数量)に分解して考えます。もちろん、現実は商品を1種類だけ売っているわけではないので、そんなに単純ではありませんけど、例えば、飲食業でしたら、客数×客単価とか、建設業なら、工事件数×工事単価、とか当てはめやすいケースもあります。

変動費(VQ)

変動費は1個多く売れたときに増える原価を言います。つまり、卸売業や小売業では仕入単価を、製造業では原材料費が変動費となります。たいていの会社では、営業する時に粗利益率が2割とか3割とか考えて値決めしていますよね。つまり粗利益率(=限界利益率m)が2割なら、変動費率は8割という訳です。
※変動費率=変動費/売上高

限界利益(MQ)

限界利益は、売上高-変動費で求めます。「限界」という単語がとっつきにくさの原因になっているような気がしますが、限界とは経済学の用語で、販売数量を1個増減させたときに利益がいくら増減するか、ということを表す考え方です。つまり、売上高、変動費、限界利益の3要素は販売数量が増えれば3要素とも増え、販売数量が減れば3要素とも連動して減る、という関係にあるのです。
※限界利益率(一般的にいう粗利益率と同じ)=限界利益/売上高

そう、この限界利益がMQ会計のMQです。つまり、会社が利益を増やしたいときは、このMQをいかに増やすかを考えることであり、このブロックで考えるのが、その検討の最適な仕組みであるということです。会計を経営に役立てるのに適した考え方であると、私は考えています。

固定費(F)

固定費は変動費以外のコストはすべて固定費として取り扱います。厳密にいうと、売上数量が2倍になったら同じ従業員数で間に合わないので人を雇うから人件費も変動費か、と言い出すと、人件費も家賃も設備投資も、すべてが変動費になってしまうので、商品仕入や原材料費以外はすべて固定費と考えて構いません。

利益(G)

利益は、限界利益-固定費で求めます。制度会計の決算書でいえば、営業利益や経常利益にあたります。

打ち手が見える

ブロックが書けたら、どこを動かしたら、利益がどうなるかを考えてみましょう。
動かせる項目は、P(売価)、Q(数量)、V(変動費単価)、F(固定費)の4つです。売上が1割増えたら、利益は1割増えるわけではないのです。売上が1割増えるとしても、Pが1割増えるのか、Qが1割増えるのかで全然違います。

このように各要素を10%変化させてみると、どの要素を増やした場合に最も効果が大きいにか、効果が小さいのか、よくわかります。これは売価や変動費率、固定費の大小などによって、変わってきますので、ご自身の決算書をブロックに置きなおしてみて、どの要素を変えるのが効果が大きいのか、検討してみるとよいでしょう。

まとめ

会計が経営に役に立たないわけではないのです。
経営に役に立つような会計の使い方を覚え、ぜひ活用してください。もちろん、会計を勉強したからといって、売上が増えるわけではありません。商品のこと、お客様のこと、業界のこと、売り方・買い方は、経営者や現場の方が一番よくわかっているはずです。だからこそ、より効果の高いところにその力を使った方が良いということです。
あなたの会社の経営に少しでもお役に立てれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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